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東京高等裁判所 昭和58年(ネ)2000号 判決 1983年11月17日

控訴人 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 佐伯仁

同 横山康博

被控訴人 乙山春夫

<ほか一名>

右訴訟代理人弁護士 久保田嘉信

同 松元光則

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求める判決

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人乙山春夫、同乙山春子と訴外亡乙山松太郎、同亡乙山マツとの間の昭和五四年一二月一七日届出による養子縁組が無効であることを確認する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

主文同旨

第二当事者の主張及び証拠関係

当事者の主張並びに書証の提出及びその認否は、原判決の事実摘示の記載と同一であるから、これをここに引用する。

理由

一  《証拠省略》によると、松太郎及びマツが生前夫婦であり、被控訴人春夫及び春子も夫婦であること、松太郎、マツを養親とし被控訴人らを養子とした昭和五四年一二月一七日届出による養子縁組(本件養子縁組)がなされた旨の戸籍記載があることが認められる。

二  そこで、控訴人が本件養子縁組の無効確認を求める原告適格を有するかどうかについて検討する。

養子縁組の当事者以外の第三者であっても、養子縁組の無効を確認するについて法律上の利益を有する場合には、その無効確認の訴えを提起する原告適格を有するものと解されるが、右訴えは身分関係の事件に属し、これに対する判決は対世的効力を有するものとされ(人事訴訟手続法第二六条、第一八条第一項)、これにより養子縁組の当事者のみならず、当該養親子関係を基本として形成された身分関係についても広く影響が及ぶこととされて、当該養子縁組の効力の有無をめぐる紛争を全面的に解決することがはかられていることを考慮すると、養子縁組の無効確認を求めるについて法律上の利益を有するというためには、その者が少なくとも養親子の一方(それが夫婦である場合には更に少くともその一方)の親族であって、養子縁組無効確認の判決により自己の相続、扶養等の身分関係上の地位(権利義務)に直接影響を受けるという関係にあることが必要であると解するのが相当であり、その者が養親子の一方の親族であっても、右のような関係になく、単に養子縁組無効確認の判決により自己の個別的な財産上の権利義務について影響を受けるにすぎない場合には、これを有しないものと解するのが相当である。けだし、後者のような場合には、当該個別的な財産上の権利義務の存否の前提問題として養子縁組の無効を主張させ、個別的、相対的な解決をはかることを認めるだけで十分であり、それ以上に他人間の身分関係に介入し、これを対世的効力をもって確定させることを認めるのは相当でないと解されるからである。

これを本件についてみると、《証拠省略》によれば、控訴人は、本件養子縁組の養親のマツと伯従母(五親等の血族)、養子の被控訴人春夫と従兄弟(四親等の血族)という親族関係(同居の親族でないことは、弁論の全趣旨により明らかである)にあることは認められるが、それ以上に本件養子縁組無効確認の判決によって相族、扶養等の身分上の地位(権利義務)に直接影響を受ける関係にあると認めるに足りる証拠はないから、控訴人は本件養子縁組の無効確認を求める原告適格を有しないというべきである。控訴人は、松太郎、マツ夫婦から松太郎の財産の管理を委任され松太郎の債券を預り保管中であって、本件養子縁組の無効確認の判決を得ることによって被控訴人らに対するその返還義務を免れることになるから、本件養子縁組の無効確認を求める原告適格を有すると主張するが、仮に控訴人と松太郎及びマツとの間に控訴人主張のような事実があったとして、本件養子縁組無効確認の判決を得ることにより松太郎及びマツと被控訴人らとの間に養親子関係が存在せず、ひいては被控訴人らの松太郎についての相続権のないことが確定されたとしても、控訴人としては、自己の相続、扶養等の身分上の地位(権利義務)に何らの影響を受けるものではなく、単に、自己と松太郎及びマツとの委任契約に基づく債券の返還義務を被控訴人らに対しては負わないという個別的な財産上の義務について影響を受けるにとどまるものであって、このような自己の個別的な財産上の権利義務について影響を受けるに過ぎない場合には、右権利義務の存否の前提として養子縁組の効力を争えば十分であり、またそれが相当であることは前記説示のとおりであるから、前記のような関係の存在することをもって控訴人が本件養子縁組の無効確認を求める原告適格を有するということはできない。

三  よって、控訴人の本件訴えは不適法であるとした原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法第九五条、第八九条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 香川保一 裁判官 越山安久 村上敬一)

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